その竹の中に
もと光る竹なむ
一筋(ひとすぢ)ありける
あやしがりて
寄りて見るに
筒の中光りたり
それを見れば
三寸ばかりなる人
いとうつくしうて居たり
翁言ふやう
わが
朝ごと夕ごとに見る竹の中に
おはするにて知りぬ
子になるべき人なめり
とて 手にうち入れて
家へ持ちて来ぬ
妻(め)の女に
あづけて養はす
うつくしき事かぎりなし
いと幼ければ
籠(こ)に入れて養ふ
そのたけのなかに
もとひかるたけなむ
ひとすぢありける
あやしがりて
よりてみるに
つつのなか
ひかりたり
それをみれば
さんすんばかりなるひと
いとうつくしうて いたり
おきな いふやう
わが
あさごと ゆふごとに みる
たけのなかに
おはするにてしりぬ
こになるべきひと なめり
とて てにうちいれて
いへへ もちてきぬ
めの をんなに
あづけてやしなはす
うつくしきことかぎりなし
いと おさなければ
こにいれて やしなう
【その竹のなかに、
根本が光っている竹が
一本あった。
不思議がって
近づいて見てみると、
筒のなかが
光っているのであった。
それを見ると
三寸くらいの人が、
とても美しい様子で
そこに(座って)いた。
翁が言うのには、
「私が朝な夕なに見ている
竹のなかにいらっしゃるので
(あなた様のような
美しい人のことを)
知りました。
(あなた様は、
竹が籠[こ]に
なるかのように)
私の子供になるべき
人であるようだ」
と言い、
手のなかに
(いかにも
大事にしている様子で)
入れて、
家に持って帰った。
妻である
嫗(おうな・おんな)に
預けて育てさせる。
(老いた妻に預けて
育てさせる。)
可愛らしいことは
たとえようもない。
あまりにも
小さいものだから、
竹でできた籠のなかに入れて
育てることにした。】
原文冒頭の文章の次に続く
『その竹の中に』からの文、
こちらも
無駄を感じさせない、
しかも
美しい文章です。
いよいよ
かぐや姫の登場、
本格的に物語のなかに
入っていきます。
ピカピカに光る、
おそらくは
背が高くて太い竹の幹のなかに、
それはそれは
美しくて可愛らしく
素晴らしい・・・
小さな小さな
女の子がいました。
子供の頃はそういうお話
だと思っていたので
何とも
感じなかったのですが、
少し考えてみれば
光る竹はひどく怪しいし、
そこにいる女の子だって
すごく怪しい・・・
竹取のお爺さんは
ひとりで
よく近づけたものです。
怖くて逃げだしたく
ならなかったのでしょうか。
これも年の功でしょうか。
いいえ、
たぶん
人智をはるかに超越した
何らかの力が働いて、
恐怖心など
抱かなかった・・・
のだと思います。
そうでなければ、
この物語のすべてが
成立しませんよね。
それとも、
すごいお宝がもらえる(?)
という理由なしでは、
この不思議すぎる
いかにも怪しい子を
育てることに
躊躇すること確実、
加えて臆病な
私などと違って、
竹取のお爺さんは、
何か聖なる存在から選ばれた
純粋な人
だったのかもしれません。
竹取の翁の夫人、
お婆さんも
頼まれて(?)
育て上げる
のだからすごい・・・・・・
立派です。
こうして、
竹のかごのなかで、
かぐや姫は
大切に大切に育てられ
成長していく
のでした・・・。
特別な子