鶉鳴き
古しと人は
思へれど
花橘の
匂うこの屋戸
大伴家持
うづらなき
ふるしとひとは
おもへれど
はなたちばなの
にほふこのやど
おほとものやかもち
鶉が鳴いて古くてすさんだところだと人は思うが
花橘が香るいつもと変わらないこの家と庭よ・・・
鶉が詠まれた和歌、
ホトトギスではない夏の歌です。
花橘と一緒に詠まれたのだから夏に間違いないのでしょうね。
鶉は俳句の世界ではどうも秋の季語らしいのですが、
古い歌なので現代の歳時記や季語との関係は
たぶんそんなに濃くはないのだと思います。
鶉と聞けば卵を思い浮かべてしまうのですが、
もちろん古くから野生で生きていて、
家禽としても日本での歴史は古いようです。
小さな頭部の割には身体は大きめで丸いのが特徴的な鳥です。
色は地味なほうですが、見た目はなかなか愛らしいですよね。
さすが古代なので、家の庭に鶉の声が響いているのですね。
この場合は飼っているわけではない感じですが・・・。
そして花橘の爽やかな香りが満ちている、
ここは昔と変わらず安心する・・・人が何と言おうが・・・
古しと人は思へれど
今からすればずっとずっと昔の人が古いなんて言葉を使っていると、
なんだか面白く不思議な感じがします。
古風だとかの意味ではなくて、
家や庭の様子が古びて荒れているのを詠んだ歌、
子供っぽい感想かもしれませんが
古い歌なだけに、いかにもものすさまじい感じの様子だったのかな、
などと思ってしまいます。
まあ、たぶんそうではないのでしょうが。
人がどう思っても自分にとっては昔と変わらず良いところ。
あまりにもさびれていたら、おそらくそう感じなかったでしょう。
古代の有力な家の人なのだから、
庶民感覚(?)みたいなものはさほど持ち合わせていなかっただろうしなあ・・・。
うーん、それともそうでもなかったのか・・・。
古い時代だしなあ。
こればっかりはよくわかりませんね。
鶉には悪いのですが、
鶉の野生の姿というのも飼われている様子もどちらもよくわからず、
庭などで鶉の鳴き声が聞こえるという状況も、あまり想像がつきません。
花の良い香りがする、これはいくらなんでもわかります。
要するにこんな感じでしょうか。
郊外かどこかの邸宅、古い御屋敷で全体的にそんなに手入れされていない、
鶉の鳴き声も聞こえるほど、
人はあまりよく言わないだろうけれども、
自分にとっては夏になれば花橘の香りがする
昔とあまり変わらない懐かしい家や庭の様子だ。
たぶん季節ごとに変化する姿にも魅力があったのでしょう。
何だか古い物語にでも出てきそうな感じの御屋敷ですね。
ああ、本人にとってはまさしくそうだったし、
だからこそそれだけ愛しい環境なのですね。
この感じはわかる気がします。
変わらないものが
そこにはある