晴るる夜の
星か川辺の
蛍かも
我が住むかたに
海人の焚く火か
在原業平
はるるよの
ほしかかはべの
ほたるかも
わがすむかたに
あまのたくひか
ありはらのなりひら
晴れた夜の星だろうか 川辺にいる蛍かもしれない
それともまた私が今住んでいる芦屋の里のあたりの海人が焚く漁火か
蛍がまた、今の季節に似合っている和歌です。
なんでも伊勢物語に登場する昔男、つまりは在原業平さんですよね、
が摂津国は芦屋の里に滞在していたとき
遊びに行った帰りの道でのお話だそうです。
漁をするために焚かれる漁火(いさりび)を見て、
おそらく幻想的なその光景に
あれは星か、川のそばにいる蛍か、
それとも現在住んでいる蘆屋の里の方角にいる海人の漁火か、
というようないろいろと凝った演出(?)めいたことを
和歌のなかの言葉で詠んでいるということですね。
演出なんて言葉を使ってしまいましたが、
もちろんその光景は演出でも想像でもなく、
当時実際に見られたものなのでしょう。
古い時代の闇夜というものはまさに真っ暗だったことでしょう。
そこに何らかの灯りが見えたとしたら、ほっとすると同時に
何か幻のような魔法のような、不思議な想いにとらわれたかもしれません。
まして遠くに見えたとしたならなおさらですね。
人が焚いたり灯したりした火が灯りだった時代、
月などはもちろんですが、
小さな星明かりだろうが、
目の前を飛んだり葉などにとまっている蛍の光であっても、
遠くのほうに見える漁火であろうとも、
人の心に訴えかける力があったと思います。
それは、おそらく現代人の想像を超える力だったのではないか、
そんなふうにも感じます。
現代だって、出会えるとは思わなかった場所で蛍の光などに接したら、
何やら自分がふんわりと別世界に漂って行ってしまったかのような
錯覚を覚えることすらありますから。
伊勢物語は現代文に訳されたものをささっとしか読んだことがありません。
ただぼんやりとした印象では恋物語なのはもちろん、
全体的に幻想小説みたいな空気があるなと思いました。
その当時ではロマンチックというやつなのかなあ・・・。
ただ、出会うたびごとに恋に落ちるみたいな状況に浪漫があると感じるかどうかは
人それぞれですよね・・・。
あくまで物語のなかのお話ではありますが。
まあ時代の好みというようなものがあったのでしょうね・・・。
ひねくれものの感想です。
単純に感動とか感受性というようなことならば、
現代人よりも昔の人のほうがより鋭かったのでは、なんてよく思います。
あれ?それって賢さだってもしかしたら同じことなんじゃ・・・。
あんまり追求したくないことです。
ああ、賢くない人間がなんかつぶやいているよここで・・・。
鋭いのが幸せか
適度に鈍いのが幸福か
難しい問題で答えはないな