薄明かりのなかから涼しげな音がする

 

石山にて 暁 ひぐらしのなくをききて

 

葉を茂み
外山の影や
まがふらむ
明くるも知らぬ
ひぐらしの声

藤原実方

 

いしやまにて あかつき ひぐらしのなくをききて

 

はをしげみ
とやまのかげや
まがふらむ
あくるもしらぬ
ひぐらしのこゑ

ふぢはらのさねかた

 

葉が茂って山の外側にできた影を
夕刻や夜の暗さと間違えるのだろうか
すでに夜が明けていることも知らず
日明かり時に鳴く日暗し(蜩)の声

 

 

カーナカナカナカナ・・・
カナカナ蝉などとも呼ばれる蜩が、
林などで音の霧雨が降るように鳴いていることがありますね。

 

ただ私の耳には、カナカナカナ・・・というふうには聞こえません。

 

うーん、どちらかといえば・・・
ピピピピピピ・・・とか、
リリリリリリ・・・
あるいはジジジジジジ・・・
それともキキキキキキ?
こんな感じの鳴き声に聞こえる、
これって耳の問題でしょうか。

 

でもどんな鳴き声に聞こえようと、
涼しげな声だなあと感じて少しうれしくなります。

別に蝉の鳴き声に優劣があるわけでもないのに、
ミーンミンミンと聞こえればいかにも夏と思い、
ジージーなら、ああ暑いよお・・・
蜩の声なら涼しく感じる、
鳴き声を発する場所や時間帯もあって
人の感じ方も影響するのでしょう。

 

蜩は明け方や夕暮れどき、または林や森のなかなど、
薄暗いなかで音をたてる習性があるようですね。

場合によっては夜に鳴くこともあるそうです。

 

夏の終わりから秋の終わりごろにかけて
たまたま何かのときに蜩の声を耳にしたりしたら、
ああ夏ももう終わりなんだなと、
ほっとするような寂しいような気持ちになります。

そのあたりが、実際には夏から鳴いている蜩なのに、
俳句では秋の季語になっている理由なのかもしれません。

 

上の歌をお詠みになった藤原実方さんについてですが、
陸奥守として陸奥に赴き、
三年ほどの後に任地で世を去ったと伝わっています。

 

なぜ陸奥守に任ぜられたかといえば、
藤原行成氏の言動に腹を立てて
殿上で問題のある行動をとったことがあだとなって、
ときの一条天皇から「歌枕見て参れ」
との命令を下されたから、
という少し(?)不穏な伝説が残されているみたいです。

 

若い頃から和歌の才能を認められ、
都で風流な貴公子として華やかに暮らしていたようですが、
宮仕えの悲しさと性格(?)から、
運命が暗転(?)してしまったようですね。

 

当時の陸奥の地も、
いろいろな産物に恵まれた
豊かな土地だったに違いありませんから、
元気なときには
居心地の良い暮らしをしていたかもしれませんが、
都暮らしから古代の地方暮らしに変わり、
苦労でもあったのでしょうか。

歌枕を実際に見ることはできたんだろうか・・・。

地方でも風流人だったのかなあ・・・。

 

あくまでも伝説なので
本当のところはわかりませんが、
切なくなるお話ですね。

 

藤原実方さんは、中古三十六歌仙のおひとりでもあります。

 

高い樹々の上から
音のシャワーが
落ちてくる
これはまさしく季節の音楽だ
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